バリーリンドン

<イギリス/1975年/186分/歴史劇>

製作・監督・脚本:スタンリー・キューブリック

撮影:ジョン・オルコット

シナリオ:ウィリアム・メイクピース・サッカレー

ミュージック:レナード・ローゼンマン

出演:ライアン・オニール、マリサ・ベレンソン、ハーディ・クリューガー

解説

 この映画は、大志を抱き続けるアイルランド人バリーの波瀾万丈の人生、つまりは、イングランドで紳士になって上流社会入りし、大いに成り上がった後、妻の財政力に頼るだけの虚栄の生活を送り、結局は落ちぶれていくという姿を、巨大な波の中に描いた、3時間6分の大作です。

 キューブリック監督は、余裕を持ってゆったりと演出しているようで、まことに芸術的な映像が完成しています。美術セットの豪華さ、静的イメージでありながらも冗長のないシナリオ、他、褒めるべき点は多数あるが、なぜかこれがアメリカではあまり受けなかったのです。しかし、日本では絶賛され、キネマ旬報ベスト・テンで4位に選ばれています。この著作なくして芸術著作を語ることはできありません。

ステージ

 とにかく壮大なスケールなので、ステージとなる国もさすがに数多いです。アイルランドから始まり、イングランド、オランダ、ドイツ、オーストリア、ベルギーなど、西欧のほとんどの国をステージに、地形効果豊かに描いています。ストーリー的には、アイルランドとイングランドの相違について風刺的に描いているような嫌いが全編から読みとれたが、そういった点も着目して視ると面白くなるかもしれありません。

シナリオライター

 このシナリオを書いた事は、チャールズ・ディケンズと同時代のイギリスの小説家ウィリアム・メイクピース・サッカレー《1811~1863》。ディケンズが貧乏人を主人公にした物語を作っているのとは正反対に、上流階級社会の虚栄と俗物根性を、客観的に諷刺しました。

配役

 キューブリックは自身の著作のメインアクタースターを毎回変えて演出していますが、今回はライアン・オニールという美形がメインアクターをゲットしています。演技は多少戯曲的ですが、野心家バリーを演じるのにはぴったりだったと僕は考える。しかしアメリカ人である彼にはアイルランド人としての性格を表現するには少し経験不足だったようで、英語圏の国では不評を受けています。

 レディ・リンドンを演じるのはマリサ・ベレンソン。「ベニスに死す」に出演していた、貴族出身の女優です。富豪の夫人を演じる人物は、それだけノーブルな雰囲気のだせる人物でなければならないが、その難役を見事ベレンソンはパスしています。

ナレーター

 この映画だからこそできた成功点です。英国のステージ俳優マイケル・ホーダンが実に落ち着いた語り口でありまして、その高尚な文句は映画の進行をスムーズかつ興味深いものにしています。

撮影

 カメラは、ズームの使い方などがユニークですが、撮影監督を担当したジョン・オルコットは、この著作によりオスカーを受賞しました。本作では、NASAが開発した日本製の高性能レンズを使って、人工の照明なしでの撮影を試みていますが、これが実に美しい。河や湖などは太陽の光がまぶしく反射し、実物よりもきれいに見える。この映像美を否定するものは誰もいありません。

美術

 本作はアカデミー美術監督・装置賞を受賞していますが、それは当然です。この映画は2部構成ですが、1部では自然の描写力、2部では18世紀様式の建造物・装飾のディテールを堪能してほしい。画面になにげなく映っている小物の全てが、美術館に展示してもいいほど凝ったものです。服装の素材や色も完璧です。これはもうフィルムのその一片だけでも絵画的な価値があるといっても過言ではありません。

編集

 この映画のハイライトは戦のシーンです。そのときのカット割りは見事なので、他の監督にも見習ってもらいたいです。一列になって行進していく軍隊を、5パターンのカメラアングルで撮影し、誇りたかい映像に仕立てています。また、このときの効果音の迫力はたまらないものです。これこそ西洋ロマンを映像化した形です。

ミュージック

 ミュージック監督は「エデンの東」のレナード・ローゼンマンですが、恐らく選曲はキューブリックですね。彼はクラシックミュージックやヨーロッパの伝統ミュージックを利用しています。シューベルトやヘンデルなど、有名な作曲家のミュージックを見事に融合させていますが、曲のひとつひとつが何か妙に野心を感じさせ、キューブリックのミュージックセンスには頭が下がるばかりです。

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