フルメタル・ジャケット

『フルメタル・ジャケット』は1987年のアメリカ映画で、ベトナム戦を題材にした戦争映画です。ハートマン軍曹のシーンがとても有名ですが、それ以外にも見どころが多い映画になっております。シナリオはグスタフ・ハスフォードの小説『ショート・タイマーズ』《用語の意義としては「短期現役兵」》。邦訳『被覆鋼弾』《意味は弾体の鉛を銅などで覆った弾のことです。

あらすじ

明確に二部に分かれた構成。前半では海兵隊訓練所で新兵が受ける過酷な訓練、後半では彼らのベトナムでの行動が描かれます。

ベトナム戦時、アメリカ海兵隊に志願した青年たちは、サウスカロライナ州パリス・アイランドの海兵隊訓練キャンプで激しい教練を受ける。キャンプの鬼教官・ハートマン軍曹の指導のもとで行われる訓練は、徹底的な叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰が加えられ続けるという、心身ともに過酷を極めるものだったのです。さらに連帯責任による懲罰、訓練生の間で行われるいじめなど閉鎖的な場所で受ける社会的ストレスが次々と描かれていきます。落ちこぼれだった訓練生レナードはこれにより精神に変調をきたし、卒業前夜にハートマンを射殺し自らの命を絶ちます。

激しい訓練を耐え抜き一人前の海兵隊員となった彼らは、ベトナムへ送られます。テト攻勢の第一撃を受けた後、前線での取材を命じられた報道部員のジョーカーは、訓練所での同期であったカウボーイと再会し、彼の部隊に同行することとなっています。ある日カウボーイたちは、情報部から敵の後退を知らされ、その確認のためにフエ市街に先遣されます。しかし交戦地帯で指揮官をブービートラップで失った上に敵の狙撃を受け、部隊は混乱します。

登場人物とキャスト

ジェイムズ・T・デイヴィス《ジョーカー》

演 - マシュー・モディーン

本作の主人公で、海兵隊員。アイロニー屋で、その言動から「ジョーカー《おふざけ野郎》」と命名されました。ハートマンにもアイロニーを言える度胸を買われ、訓練途中から班長に抜擢、ローレンスの補助を命じられます。高校時代広報部だったため、歩兵訓練後は『スターズ・アンド・ストライプス』《米軍の準機関紙》の報道員となる《その際に軍曹に昇進》。シナリオでは高校で演劇部の経験も積んでいて、声帯模写が特技。いつも胸にはピースマークのバッジを付け、ヘルメットカバーには「Born To Kill」と書いています。前線でこれを見咎めて問いただす海兵隊大佐は、ジョーカーの「ユングのいう、人間の二面性のようなものを表そうと思ったのです」という説明が、全く理解できありません。

レナード・ローレンス《ほほえみデブ。英語では「ゴーマー・パイル」》

演 - ヴィンセント・ドノフリオ

渾名の由来は軍隊ドラマ『マイペース二等兵』の間抜けな主人公より。海兵隊に志願したはいいが、靴紐を結べないなど基本的な生活能力に欠ける面がありまして、訓練所では当初は失敗を繰り返して、その度にハートマンから激しい指導を受ける。これを繰り返すうちに、連帯責任として本人を除く全員が罰を受けるようになり、それを恨んだ隊員たちからリンチ《blanket party》を受ける。その後射撃の才能を開花させ入隊時とは別人のように成長していくが、精神に変調をきたし、M14自動小銃に話しかけるなどの奇行が目立ち隊員達から気味悪がられます。シナリオでは最優秀訓練生として、卒業パレードで礼装「ブルードレス」を着る栄誉を得た。訓練所を離れる前夜、営舎トイレにて、武器庫より持ち出したM14自動小銃でハートマンを射殺、自身も銃口を口にくわえて引き金を引き自殺します。

ハートマン

演 - R・リー・アーメイ

海兵隊の訓練教官で階級は一等軍曹。激しい教練で知られ、訓練生たちを容赦なく汚い言葉で罵る。シナリオ小説ではガーハイム砲兵軍曹という名で、硫黄島での戦歴があるなど、映画とは設定が若干違います。訓練所卒業前夜、M14を持ち出したレナードを諭すが腹部を撃たれて死亡します。

エヴァンズ《カウボーイ》

演 - アーリス・ハワード

海兵隊員。訓練所ではジョーカーと同じ班。テキサス出身で、ヘルメットには南部旗のステッカーを貼っています。H中隊第1小隊所属の下士官で、先遣隊隊長のクレイジー・アールがトラップによって戦死したとき、臨時に指揮を執る。戦車を呼ぶ際に、建物に開いていた穴から狙撃され、止血の甲斐なく死亡します。シナリオでは、第3部のジャングル戦で非業の死を遂げます。

アニマルマザー

演 - アダム・ボールドウィン

カウボーイの分隊に所属するM60機関銃手。カウボーイの後退命令を拒否して、撃たれた仲間の救出を試みます。本名は不明。シナリオでは民間人や、気に入らない上官を殺すことすらいとわない凶暴な面が強調されています。

スタッフ

監督:スタンリー・キューブリック

ミュージック:アビゲール・ミード《=キューブリックの娘ヴィヴィアン・キューブリック》

日本語訳

他のキューブリック著作でも多い例ですが、キューブリック自身が本著作の字幕翻訳を確認しています。当初の翻訳は戸田奈津子が担当したが、ハートマン軍曹の台詞を穏当に意訳したため、再英訳を読んだキューブリックは「汚さが出てない」として却下、急遽、原田眞人が起用され作業にあたった。キューブリックが原文に忠実な翻訳を要求した結果、「まるでそびえたつクソだ!」など、日本語としてはまことに奇妙な言い回しの字幕になってかえって話題を呼び、さまざまなパロディが発生しました。

撮影

アメリカとベトナムがステージですが、イギリスで撮影されました。そしてシナリオの後半が省略されたこともありまして、ベトナム戦を扱った映画には珍しくジャングルでの戦闘がなく、主に市街地戦闘が描かれています。ただしシナリオではフエ宮殿地域の邸宅群がステージとなっているのに対し、映画ではコンクリート建築が並ぶ街並みにアレンジされています。

配役

当初、訓練教官役への演技指導として、海兵隊の訓練教官を務めた経験のあるリー・アーメイが呼ばれたが、その迫力が余りにも生々しく圧倒的だったため、自ら訓練教官を演じることになりました。劇中の台詞の半分は猥褻で下品なものが含まれ、さらに本人ばかりか出身地や家族まで徹底的にこき下ろしてしまう彼の罵詈雑言に出演者が怒りだすこともあったといいます。映画前半の訓練キャンプの描写はまことに有名ですが、シナリオ小説では全体の1/5程度を占める部分にすぎず、配給会社が用意した映画の予告編にも登場しありません。

ハートマン役の予定だったティム・コルセリは、降板させられたことがまことに不満だったといいます。代わりに演じた輸送ヘリのドア・ガンナー役では、ヘリから眼下のベトナム農民を片っ端から撃ち殺し「逃げる奴は皆ベトコンだ、逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ」と言い、さらにジョーカーの「よく女子供が殺せるな」という質問に対しては「簡単さ、動きがのろいからな」と答え、「ホント、戦は地獄だぜ!」と言い放つという、数分の登場ながら狂気に満ちた演技を見せましました。

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