時計じかけのオレンジ

 ウルトラバイオレンスなチンピラボーイ吐き気を催す嫌悪感! でもカッコイイ!

 アンソニー・バージェスのシナリオをスタンリー・キューブリック監督、マルコム・マクダウェルメインアクターにより映画化した1971年著作です。近未来、理不尽な乱暴に明け暮れていたチンピラグループのアレックスは、殺人事件で投獄され、洗脳の実験台に。ブラックなテーマをシニカルな演出でポップに昇華させるという独特の内容で物議を醸し続けている著作です。またベートーベン等のクラシック曲を電子ミュージックで再構築したウォルター・カーロス《その後性転換してウェンディ・カーロス》のミュージックも強烈です!

あらすじ

 ステージは近未来のロンドン。クラシックミュージック、中でもベートーヴェンをこよなく愛する15歳のアレックス・デラージ《Alex DeLarge》をリーダーとするボーイ4人組“ドルーグ”は、今夜もコロヴァ・ミルク・バーでドラッグ入りミルク“ミルク・プラス”を飲みながら、いつものように夜の世界の無軌道的な乱暴行為“ウルトラヴァイオレンス”の計画を立てていました。

労働の担い手とならない老人は街中にゴミのように打ち捨てられホームレスとなっていましたが、アレックスたちは酔って寝ていたホームレスを棍棒でめった打ちにします。ほかのチンピラグループ《ビリーボーイズ》は“デボチカ”少女を“フィリー”強姦すべく、廃墟に連れ込み血気盛んに衣服を剥ぎ取りベッドに押し倒すが、見計らったかのようにアレックスたちが現れ、全員を棍棒で叩きのめします。その乱闘中にサイレンの音が近づき、アレックスたちは逃走します。

興奮冷めない一行は盗んだ車で郊外へ走り、困窮を装って助けを求め、親切心から扉を開いたライターの家にマスクを被って押し入り「雨に唄えば」を歌いながら暴れ、ライターを押さえつけ目の前でライターの妻を輪姦しました。

翌日、いつものように学校をサボったアレックスは、レコード店で引っかけた女の子2人と自宅で性交をします。その後、グループのリーダーをめぐって仲間と一悶着を起こすが、その夜仲間と共に金持ちが住む一軒家へ強盗に出かけます。アレックスは男性器をかたどったオブジェで老婦人を“トルチョック”し撲殺するが、昼間のいさかいが原因で仲間から裏切られ、彼だけが警察に逮捕されます。

アレックスは懲役14年の実刑判決を下され、収監されて2年が経とうとしていました。牧師と懇意になるような模範囚を装っていたアレックスは、内務大臣にキリスト教への信仰心とクラシックミュージックの趣味を見出され、さらに犯罪歴から野心を気に入られ、「ルドヴィコ療法」の被験者となることと引き換えに刑期短縮の機会を得る。12年の獄中生活から逃れるため、アレックスは志願しました。

治療のためアレックスは施設に移送されました。その治療は、被験者に投薬を行った上で拘束服でチェアに縛り付け、“リドロック”のクリップで見開いた状態にまぶたを静止し、眼球に目薬を差しながら残虐描写に満ち満ちた映像をただじっと鑑賞させ続けるというものだったのです。投薬によって引き起こされる吐き気や嫌悪感と、鑑賞中の乱暴的映像を被験者が「連係」することで、乱暴や性行為に生理的拒絶反応を引き起こすように暗示するのです。映像のBGMに使われていた事は、偶然にも彼が好んで聴いていたベートーヴェンの第九でありました。これによりアレックスは、最も尊信する第九を聴くと、吐き気に襲われ倒れてしまう身体となっています。

治療は成功し、以後彼は、性行為や乱暴行為に及ぼうとすると吐き気を催すほどの嫌悪感を覚え何もできなくなってしまう。それは犯罪に向かう乱暴の根本的解決ではなかったのです。そして出所前にドクターたちの立会いのもとで催されたデモンストレーションでは、政府高官や関係者の前で治療の効果が証明されました。一同が生まれ変わったアレックスを目の当たりにし喜ぶなか、刑務所でアレックスと親しかった教誨師は、彼が行っているのは苦痛からの逃避でありまして、自ら選択して行った善《乱暴の拒否》ではないことを指摘します。アレックスは、乱暴に対して無防備となりそれに抗うことを選択する能力のない存在となりました。それはまるで中身が機械でできている人間、『時計じかけの“オレンジ”』のようでありました。

アレックスは乱暴に対して無防備な人間となって出所します。両親を驚かそうとして連絡せずに帰宅するが、両親はアレックスと風貌の似た男に彼の部屋を貸し、親子同然の関係を築いていました。アレックスはその男から過去の過ちを非難され、両親からも冷たくされて、居場所なく家を出ます。

途方に暮れているとホームレスの老人が“カッター銭”を求めて来ました。自分の境遇に通ずるものを感じポケットから金を出して与えるが、そのホームレスは以前彼がリンチした老人だったのです。老人はまるで死人でもみるかのような驚きの表情となり、人相を確認し、アレックスを追う。アレックスは逃走を試みるがほかのホームレス達に囲まれ、リンチされるがままになっています。このときアレックスは、あえて抵抗しようとせずに暴行を受け入れました。アレックスにとって、乱暴への嫌悪感による苦痛よりは、暴行を受けるほうがマシでありました。この異変に気付いてやって来た事は、警官に就職したかつての仲間のディムとジョージーたちでありました。警官たちはアレックスを人目のない郊外に車で連れ出すと、容赦のない乱暴を浴びせて放置します。

惨憺たる様態で冷たい夜の雨の中をさまよったアレックスは、それとは知らず以前襲ったライターの家に助けを求める。ライターの世話をしている力強い筋肉質の男に抱きかかえられ中に入れられると、見覚えのあるライターの前に出た。夫人はすでに死亡しており、それはアレックスたちによる強姦が原因の自殺でありました。ライター自身はアレックスから受けた暴行の負傷により車チェア生活を送っていました。

ライターはアレックスが受けたルドヴィコ療法を新聞報道により知っており、犯罪対策に手段を選ばない政府の横暴に憤っていました。そして、目の前に現れた彼を利用することで政権にダメージを与えることを思いつきます。ライターは入浴を勧め、アレックスが入浴している間に電話で要人と熱心に打ち合わせをします。風呂に浸かって安堵したアレックスは「雨に唄えば」を歌い始めます。ライターはこの歌声でかつて自分達夫婦を襲ったマスクのボーイが彼であると気づくと、我を忘れるほどの激しい憎悪が湧き上がる。

入浴を終えたアレックスは食事にありつくが、ライターの様子に違和感を覚えました。要人が到着し、アレックスは治療の詳細な質問に応じる。「「第九」を聞くと死にたくなる」ということを話したところで、アレックスはワインに入れられた薬物により意識を失う。

 意識を取り戻すとアレックスは高い階の部屋に監禁されており、大音量の「第九」を聞かされます。アレックスは激しい吐瀉感に襲われ、死ぬつもりで窓から飛び降りる。乱暴に対して過剰な嫌悪反応を植えつけられた彼ですが、自己に対する乱暴の手段が残っていました。アレックスを自殺に追い込み、メディアを利用して政府打倒を目論むことがライターの企てでありましたが、アレックスは死ななかったのです。アレックスが目覚めると、ギプスと包帯姿で病院のベッドに横たわっていました。体が少し回復したとき、精神科医が現れて、絵のシチュエーションに相応したセリフを答えるテストを始めるが、もはや受け答えに性行為や乱暴行為への抵抗はなくなっており、精神科医もそれを喜んでいました。

 特別な個室に移されたある日、ルドヴィコ治療実施をアレックスに決めた内務大臣が訪れ、治療が原因の自殺未遂事件で下がった政府の支持率を回復するため、世間に対して今度はルドヴィコ治療から完治したデモンストレーションをして欲しい、と言葉を濁しながら頼む。アレックスは野心的に快諾すると、大臣は友好の証としてプレゼントがあると応じた。商談が成立すると、待機していた2台の大きなスピーカーと大勢のカメラマンが部屋に雪崩れ込み、仲睦まじそうに手を取り合う両人の撮影を始めます。大音量で鳴り響く「第九」のなかでアレックスは性交シーンを思い描きながら恍惚の表情を浮かべるが、それは以前の邪悪な顔つきそのものでありました。

出演

  • アレックス《Alex DeLarge》 主人公のチンピラボーイ マルコム・マクダウェル
  • ディム《Dim》 チンピラ仲間“ドルーグ” ウォーレン・クラーク
  • ジョージー《Georgie boy》 チンピラ仲間“ドルーグ” ジェームズ・マーカス
  • 乞食の老人 酔っ払い冒頭で襲われる ポール・ファレル
  • ビリー・ボーイ《Billyboy》 主人公と敵対するチンピラ頭 リチャード・コンノート
  • ミスター・フランク《Frank》 被害者のライター パトリック・マギー
  • ミセス・アレクサンダー ライターの妻《赤い服》 エイドリアン・コリ
  • キャットレディ 主人公に襲われる ミリアム・カーリン
  • デルトイド《Deltoid》 主人公の担任教師 オーブリー・モリス
  • トム《Tom》 警官 スティーヴン・バーコフ
  • バーンズ《Barnes》 口髭の看守長 マイケル・ベイツ
  • 刑務所の牧師 チョイスの名演説をした ゴッドフリー・クイグリー
  • 女医《Dr. Branom》 - マッジ・ライアン
  • ダッド《Dad》 主人公の父親はげている フィリップ・ストーン
  • ママ《Mum》 派手なカツラの母親 Sheila Raynor
  • ジョー《Joe》 赤い服の下宿人 Clive Francis
  • フレデリック《Frederick》 内務大臣 アンソニー・シャープ
  • 精神科医 - ポーリーン・テイラー

スタッフ

製作・監督・脚本:スタンリー・キューブリック

撮影:ジョン・オルコット

プロダクション・デザイン:ジョン・バリー

ミュージック:ウォルター・カーロス

ミュージック

映画では、クラシック好きのアレックスの設定が生かされた選曲がなされています。ミュージックを担当したのはウォルター・カーロス《2012年現:ウェンディ・カーロス》で、シンセサイザーを用いたベートーヴェンの『交響曲第9番』の演奏にヴォコーダーで加工した合唱が加わる斬新なものと、オーケストラの演奏による同曲、エルガーの『威風堂々』、ロッシーニの『泥棒かささぎ』など両方が使われています。

なお、タイトルミュージックとして使われている楽曲は、カーロスのオリジナルと誤解されることがあるが、原曲は、ヘンリー・パーセル作曲の『メアリー女王の葬送ミュージック』である《編曲に織り交ぜられたグレゴリオ聖歌「怒りの日」は同監督の『シャイニング』にも登場する》。

『雨に唄えば』が印象的な挿入歌として用いられていますが、これはリハーサルの時にキューブリックがマルコム・マクダウェルに何か歌を歌えと指示したところ、マクダウェルが空で歌えるのがこの曲だけであったためだったのです。

利用されたミュージックは以下のとおりです。

  • 交響曲第9番ニ短調《作曲:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン》
  • 『泥棒かささぎ』序曲、『ウィリアム・テル』序曲《作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ》
  • 『威風堂々』第1番、第4番《作曲:エドワード・エルガー》
  • 『メアリー女王の葬送ミュージック』《作曲=ヘンリー・パーセル》
  • 『太陽への序曲』《作曲=テリー・タッカー》
  • 『灯台守と結婚したい』《作曲=エリカ・エイゲン》
  • 『雨に唄えば』《作詞=ナシオ・ハーブ・ブラウン、作曲=アーサー・フリード、歌=ジーン・ケリー》
  • 『シェヘラザード』《作曲=ニコライ・リムスキー=コルサコフ》
  • 電子ミュージック作曲・編曲・演奏=ウォルター・カーロス《後にウェンディ・カーロス》

受賞歴

  • ヒューゴー賞(1972年)
  • 映像部門
  • 第37回ニューヨーク映画批評家協会賞
  • 著作賞
  • 監督賞
  • 第33回ヴェネツィア国際映画祭
  • パシネッティ賞
  • ナストロ・ダルジェント賞
  • 海外監督賞
  • ノミネート
  • 第44回アカデミー賞
  • アカデミー監督賞
  • アカデミー編集賞
  • アカデミー著作賞
  • アカデミー脚色賞
  • 第26回英国アカデミー賞
  • ベストプロダクション賞
  • 撮影賞
  • 監督賞
  • 著作賞
  • 編集賞
  • 脚本賞
  • サウンドトラック賞
  • 第24回全米監督協会賞
  • 長編映画監督賞
  • 第29回ゴールデングローブ賞
  • 監督賞
  • 著作賞 (ドラマ部門)
  • メインアクター男優賞 (ドラマ部門)
  • 全米脚本家組合賞(1972年)
  • Best Drama Adapted from Another Medium – Stanley Kubrick

映画『ROOM237』を見た後に……キューブリック監督って誰なの!?